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林業の循環を守るために必要な森林整備

森林の持つ公益的機能を維持するために森林の施業を行いながら、組合員の山、地域の山の価値を高めていくことは、私たちの最も基本的な仕事です。そしてそれを実現するには、上図のように森林の状況に応じて森林の手入れ(整備)することが必要です。ここでは、山を「守り」、「育てる」仕事の実際を紹介します。
森林の境界調査
森林を管理する上で最も基本的で重要なのが、所有者ごとの境界です。森林組合では、山の境界を保全していく取り組みとして、国や市の委託をうけて「山村境界保全事業」に取り組んできました。この事業では境界に番号入りのプラスチック杭を設置し、当組合の測量士による測量結果を図面として保存してきました。

地元説明会

所有者の立ち合い

測量士が行うGPS・コンパス測量
平成25年度からは静岡県森林組合連合会からの委託を受けて「地籍調査事業」に取り組み、「山村境界保全事業」と併せて、令和3年度までに約4,000haの境界を確定させてきました。今後も、計画的に調査を行い、掛川市北部の山林境界保全に取り組んでいきます。
森林整備を提案・計画するための調査
森林の整備を提案・計画するには、現状の森林の状況を把握することが第一歩となります。
まずは立木の密度、木の種類、樹齢、立木の太さ、樹高とその分布を徹底的に調査し、立木の様子を把握します。
参考として利用するのは、GISで一元管理されている森林簿や航空写真、地形図といったデータです。
森林簿や地形図
GIS(地理情報システム)の駆使

踏査
次に、「どこの木をどう出すか?」を計画します。
森林作業道を計画するのであれば、地形や土質の調査も欠かせません。
思い描く路線を踏査し、実際に開設可能なルートをGISで座標を拾いながら図面に落とします。
ここで意識していることは、山への負荷をなるべく低減させ、目標の収穫物がある地点を通ることです。
もちろん、森林所有者への還元を高めるために作業効率を最大化できるルートであることも重要です。
CS立体図
団地計画図
PDAを利用してのGPS測量
間伐作業(車両系編)
さて、いよいよ森林整備です。まずは伐った木を搬出するための森林作業道を開設します。
森林に道を開設するためのノウハウを熟知している、頼もしい協力会社の方々が主に担ってくれています。
開設前
開設中
完成!
道ができたことで、伐った木を搬出するための重機たちが進入していきます。

グラップル
手のような特殊なアタッチメントで、木をつかむことに特化した重機です。
倒した木の引き集め、丸太の移動・仕分・はい積み、丸太の積込・荷下ろし
など多くの作業に使われ、汎用性の高い重機です。
ハーベスタ
立木の収穫機です。
立っている木を根本から伐り倒し、指定の長さへの送材、玉切り、枝落としまで全てをこなせる優れもの。
その処理能力はとても高いもので、車両系間伐の主役ともいえる機械です。

フォワーダ
ハーベスタや人の手により造材された丸太を積み、森林作業道を走る運搬機です。
森林作業道は、基本的にはキャタピラの重機が作業するための道であり、丸太を出荷するためのトラックは通行できません。
そこで、トラックが進入できるところまで丸太を運ぶのがフォワーダの役割です。
間伐対象の木の選び方も重要な森林整備のポイントです。
(選木の考え方)
こうして間伐をすることで、暗かった森林が明るくなり、残った木がすくすくと成長していくようになります。
年間を通してこのような作業を行っているプロ職員のチームが“気持ちのいい山づくり”を心掛けながら作業をしています。

間伐前の様子

間伐後の様子

仕上げ、作業道の養生
しばらく利用しない道は荒れやすいので、しっかりと水切りを施し、十数年後の森林整備に備えてから所有者にお返しします。
主伐・皆伐作業(架線系編)
近年、森林の少子高齢化が問題視されるようになってきました。
主伐を行うことにより林齢構成の多様化を進め、地域の森林の総合的な価値を高めるとともに木材の安定供給に努めることが、山側には求められています。
ようやく成熟を迎えつつある掛川市北部の森林ですが、その全てが道を入れ、重機を使って丸太が出せる場所ではありません。
急峻な地形や森林作業道の開設が望ましくない場所に置いては“架線系”という集材技術を駆使して丸太を集めます。

集材機
昔から使われてきた、ワイヤーロープを使って木を集めるための機械です。木を集めたい場所にある立木(元柱)から、一番遠くの目標物付近の立木(先柱)に向けてワイヤーロープを張り、その上に搬器を走行させながら木を集める時に使うものです。
搬器の走行や木を吊るためのフックの上下などは全てこの集材機の運転席から行います。

タワヤーダ・ウッドライナー
元柱から先柱へワイヤーロープを張るのは集材機を使った集材と同じですが、タワーヤーダは元柱の役目を果たします。また、油圧の力でワイヤーの出し入れができるため、ワイヤーロープの引き回しが容易にできます。
タワーヤーダで張ったワイヤーロープの上を走るのは、ウッドライナーという高性能自走式搬器です。
ウッドライナーはワイヤーロープ上の走行や木を吊るためのフックの上下を全てリモコン操作で行えるため、より効率的な集材作業に貢献します。
プロセッサ
元柱やタワーヤーダ付近で待機するのは、プロセッサーという造材機です。
長いままの状態で集まってきた木をキャッチし、指定の長さへの送材、玉切り、枝払いなどの作業を行います。
再造林・獣害対策
皆伐後は森林を循環させるために、基本的には再造林を行います。
皆伐時に出てきた枝葉や短材を整理整頓する、地拵え(じごしらえ)という作業をしてから、植えつけていきます。

地拵え

植付

植付完了
近年は獣害対策も欠かすことができません。
シカやカモシカの生息密度が増加しており、植えた苗を食べに来てしまうのです。
獣から苗を守るには大きく分けて、2パターンの方法があります。
①防護柵:保護対象地(造林地)の外周をネットで囲い、シカやカモシカの進入を防ぐもの。
②単木保護:保護対象の木(植林木)一本一本を、筒やネットで包んで食害を防ぐもの。
防護柵

単木保護その1

単木保護その2
全国をみても獣害対策の歴史は浅く、確立された方法は現在のところありません。
しかし、食害のリスクが大きいままでは「植える→育てる」のサイクルが繋がらなくなってしまいます。
そこで掛川市森林組合では“再造林・獣害対策チーム”を編成し、数年にわたって資材や手法の検討を独自に行ってきました。
数年の研究・検討を重ねることで、条件に応じた有効な対策手法について私たちなりの答えを出すことができました。
ようやく、皆伐・再造林を提案できる基礎が整ったのです。
育林
苗を植え、獣害対策を施したら5年間程度は特に目と手をかける必要があります。
獣害対策資材は、「一度設置すれば安心。」というものではありません。
思わぬ倒木や獣によるアタックで資材が破損してしまうケースもありますので、定期的な見回りをし、必要に応じて修繕する必要があります。

資材の破損
資材の修繕
苗の生育状況もしっかり確認
苗の背が低い段階では、下刈りという作業が必要になります。
皆伐地は日当たりが良いため、丈の長い草や成長の早い雑木が急激に生えてきます。
それらを放置しておくと、せっかく植えた苗に光が届かなくなっていまい、最悪の場合枯れてしまうこともあります。
苗がたくさん光を浴びれるよう、状況に応じて周辺の草木を刈っていきます。
下刈り前

下刈り作業
下刈り完了
こうして約5年間、苗の丈が草に負けず、食害にあわない高さまで成長することをしっかり見届けて、ようやく一安心。新たなサイクルが始まります。